変わるということ、変わらないということ
――物語と人生のあいだで考える
序 矛盾を抱えて生きる
人は、なかなか変わりたくても変われません。そして、変わりたくなくても変わってしまうことがあります。私たちは、そんな矛盾の中に生きているように思います。
気づけば、昨日の自分とは少し違う考え方をしていたり、もう一度やり直そうと思いながら、同じことを繰り返していたりします。変化とは、意志でつかめるものでも、完全に制御できるものでもありません。それでも私たちは、「変わりたい」と願いながら生きています。あるいは、「このままでいたい」と抗いながら。
どちらの気持ちも、等しく人間らしいものです。「変わる」と「変わらない」のあいだには、何かを守りながら前に進もうとする、揺らぎの時間があります。その時間の中にこそ、生きることの真実があるように思います。
変わろうとした瞬間、すでに変わっている
「変わろう」と思ったその瞬間、実は人はもう、少しだけ変わっているのかもしれません。なぜなら、その思いは「今の自分に気づいた」証だからです。気づくことは、自己の外側に一歩踏み出すことでもあります。つまり、変化の芽は、意志の前に「気づき」として現れています。
たとえば、誰かの言葉に心を動かされたとき。それは、同じ場所にいながらも、世界の見え方がわずかに変わった瞬間です。何も行動していなくても、心の風向きは確かに変わっています。「変わる」とは、外側の劇的な出来事ではなく、内側の静かな転換なのだと思います。
けれども、その変化はしばしば不安を伴います。“変わろうとする自分”と“まだ変わっていない自分”がぶつかり合うからです。その葛藤の中で、人は立ち止まり、迷い、そして少しずつ選んでいきます。矛盾を抱えながら進むことこそ、変化の最も人間的なかたちなのだと思います。
変わりたくない気持ちの中にある「継続」
一方で、「変わりたくない」という気持ちもあります。それは怠け心ではなく、心の防衛反応のようなものです。人は、変化に痛みを感じる生き物だからです。変わることは、何かを得る代わりに、何かを手放すことでもあります。
だからこそ、変わりたくないという感情の中には、「大切なものを守りたい」という思いが潜んでいます。それは“後退”ではなく、“持続”の一つの形なのかもしれません。ときには立ち止まることこそが、心のバランスを保つ行為になるのだと思います。
変わりたくない気持ちを責める必要はありません。むしろ、その中にこそ、自分の核のような部分が見つかります。「何を失いたくないのか」を見つめることが、次の一歩を決める大切な道しるべになるのだと思います。
物語と変化:語りの中の「変わり方」
物語の登場人物たちは、なぜ変わるのでしょうか。多くの場合、それは“誰かとの出会い”や“出来事”によります。けれども本質的には、それらを通じて「自分の中の真実に気づくこと」が変化の核心にあるのだと思います。
たとえば、他人を許せなかった人が、自分の弱さを認めたときに、少しだけ心がやわらぎます。その瞬間に、物語は静かに転調します。変化とは、理解であり、納得でもあるのです。
だからこそ、人生もまた“語り”のように変わっていくのだと思います。外側で何が起きるかよりも、「その出来事をどう受け止めたか」のほうが、人を変える力を持っているのです。
納得して生きるということ
変わることも、変わらないことも、どちらも悪くはありません。大切なのは、そのどちらの自分も“自分として受け入れる”ことです。
「変わらなければならない」と焦るときもあれば、「このままでいいのか」と立ち止まるときもあります。けれども、その揺らぎを受け入れた瞬間、人はすでに一歩、先に進んでいるのだと思います。
人生とは、変化を積み重ねる物語であると同時に、変わらない想いを抱きしめ続ける物語でもあります。その矛盾を生き抜くことこそが、「納得して生きる」ということなのだと思います。

















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