還り道

彼が亡くなったことを知ったのは、その時から数か月が経った頃でした。

母から聞きました。
母は、まだそのことを親戚にも話せていないようでした。

その知らせを聞いたとき、私はすぐには何も言葉にできませんでした。

母は、彼に診断が下りていたことについて、
「もし何もわからないままだったら、もっと自分を責めていたかもしれない」
と話していました。

悲しみが消えるわけではありません。
それでも、その診断があったことで、母はすべてを自分の責任として抱え込みすぎずにいられているのかもしれません。

そして彼は、母にやさしさのこもった最期の言葉を残したのだといいます。

私は、その話を聞きながら、ただ黙ることしかできませんでした。

家族を失うつらさは、痛いほどわかります。
けれど、自分が乗り越えてきたことを言葉にしたとしても、それが今、悲しみのただ中にいる彼女の救いになるとは思えませんでした。

悲しみの前で、言葉はあまりにも小さい。
何かを説明しようとすることさえ、ためらわれることがあります。

それでも、私と彼女をつないでくれた彼に。
少しの間でも交流することができた彼に。

ありがとう、と伝えたいと思いました。

そして、どうか安らかに眠ってほしい。
その気持ちを、詩として書きとどめておきたいと思いました。

還り道

「還り道」

越えた音はしなかった

ただ風がやんで

水面が
ひとつに戻った

形あったものが
ほどけるように
とかれてゆく

それを
何と呼ぶかは

最後まで
わからなかった


私たちは生を受け、もがき苦しみ、ときには楽しみながら、それぞれの時間を歩んでいきます。

命には、いつか終わりがあります。
そのことは、どうしようもなく静かで、どうしようもなく重いことです。

けれど、その人が生きた時間まで消えてしまうわけではありません。

彼が生きた時間は、家族の胸に残っています。
彼が残した言葉も、きっと母の胸の中に残り続けるのだと思います。

そして、短くても彼と交流した時間は、私の胸にも確かに残っています。

その事実だけは、消えません。

私は彼に、そして若くして亡くした父や友人に、胸を張って生をまっとうしていきたいと思います。

いまここにある生の有難みを、かみしめながら。

彼の安らかな眠りを、心より祈ります。