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フォトエッセイ

金木犀の香り

休職をして、1週間、一人暮らしをしていた自宅から実家に帰省していた。

田舎にある実家は山間にあり、標高が高く、朝夜は10月には冷え込む。

休職に踏み切ったのは、会社で業務を一人で抱え込んでしまって、にっちもさっちも行かなくなり、同僚に相談もできずに人間関係にも歪が生じてしまい辛くなったからだ。

会社には伝えていなかった持病の統合失調症を切り札に休職願を提出しあっさり休職となった。

実家に帰れば、気候は涼しいものの、家族が温かく迎えておいしいご飯を作ってくれて、疲弊した心と身体が回復していくのを感じた。

しかしながら、いつまでも実家でのんびりしているわけにはいかない。

自分と向き合い、これからどうするか、選択をしていかなければいけない。

逃げ出した会社に戻って再度そこで頑張るのか、新たな仕事を探して心機一転頑張るのか。

やることがある。と言って実家から東京に戻る足取りは決して軽いものではなかった。

帰りの車中では、野口聡一さんの著書「どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと」を読んだ。

自分の幸せは自分の中にあること、アイデンティティを他人の評価や基準で決めるのではなく、自分と向き合って見出すと充実した生き方につながることなど、今の自分に必要なことが多く書かれていた。

自分としっかり向き合う時間にしよう。

どうにかしないといけないから。

そんな風に決意めいた深刻な気持ちになったところで、東京の自宅に到着した。

車の扉を開けると、一週間前にはしなかった金木犀の香りがふわっと香ってきたのだ。

甘い優しい香りが、深刻な気持ちを和らげ重かった足取りが軽やかになるのを感じた。

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